「待つより探す」、キューバの新型コロナ感染対策

キューバ
カラフルなマスクの子どもたち(病院の診察室で)M.Aさん提供

キューバ政府が新型コロナウィルスの感染対策を強化しています。4月4日(現地時間)の時点で、感染者は320人になりました。

対策で特徴的なのは、「感染者が現れるのを待つより先に、探しに出る」という積極的な行動指針です。どのように進めているのか、詳しくみていきます。

~キューバ政府による感染対策のポイント~

◇ 毎日、政府、専門家らがテレビやネット配信で細かな情報アップをする
◇ 症状がない人も、感染者と接触すればウィルス検査の対象とする
◇ 市中感染があるとみられる地域は封鎖、または外出自粛が強化されている
◇ 休校の措置など、市民からの不満の声も反映した
◇ 米国の対キューバ経済制裁で、ジャック・マーの支援物資が届かなかった

 医大生が個人宅を訪問

キューバ政府の新型コロナウィルス対応で特徴的なのは、日々、感染状況や政府の対応について、事細かな発信をしていることです。

毎夕、政府首脳陣、各省庁担当者、専門家らがテレビを通して、またはネット配信で国民向けに事細かく情報をアップしています。

内容は多岐にわたり、症状別の感染者、隔離している人の数だけではなく、新たな感染者の感染経路、拡大防止の新しい措置、給与保障、社会保険制度による保障内容、食料品や衛生品の生産計画、供給計画などです。

4日(現地時間)時点でキューバの感染者数は320人。うち4名が重症、8名が重篤の状態で、これまで8名が亡くなりました。1日には陽性反応で入院していた94歳の女性が無事退院したという報道もありました。

経過観察のため入院しているのは1887人で、感染の疑いが濃厚なのは291人です。そのほか、自宅で経過観察下にあるのは1万6306人です。

簡易検査ができるようになり、感染者数が増えたものの、入院患者と感染が疑われる人数は大幅に減り始めています。自宅で経過観察をする以外にも、医大生が毎日のように個人宅を訪問しながら、呼吸系の症状がないか、洗い直している状況です。

つい最近、経過観察のために指定された隔離施設からいなくなった6名が、自宅に帰ってしまったのですが、「国民の命を危険にさらした」ということで、隔離終了後は裁判にかけられることになりました。

そのほか、マスク4550枚を含めた医療品が盗まれたとして、倉庫責任者、管理者、病院ドライバー1名など計8名が逮捕されるという事件もありました。

 海外からの入国者全員にウィルス検査

キューバ(人口約1100万人)は3月10日、初の新型コロナウィルス感染者が判明しましたが、31日までに2766名がウィルス検査を受けています。検査は症状が明らかな場合に限られていましたが、今後は感染者と接触のあった人すべてにPCR検査が実施されることになりました。

加えて、最近輸入されたばかりの15~30分で診断ができる血液で検出が可能な簡易キットを使い、経過観察のために隔離されている人向けの検査も始まりました。

海外からの入国者も、ウィルス検査の対象です。キューバは3月24日から入国制限措置を取っており、外国人観光客の入国は禁止となりました。キューバ人や在留外国人は、感染者であっても入国が認められていましたが、指定場所で14日間、隔離措置となりました。

24日以前の入国者に関しては、ウィルス潜伏期間を考慮して、3月17~23日に入国したキューバ人及び全外国人にウィルス検査が実施されます。まず簡易キッドで調べて陽性反応が出れば、再度PCR検査でチェックをします。もしPCR検査で陰性だったとしても、その後に発症する可能性を考慮して、隔離施設か自宅で14日間経過観察をすることになります。

 封鎖された場所、市民の反応は?

現在キューバ国内で封鎖されている街は、首都ハバナの西に位置するピナル・デル・リオ州のコンソラション・デル・ソン自治体、カミロ・シエンフエゴス共同体(コミュニティ)。メキシコより帰国した夫婦から感染が広がり、5名の感染者が出ました。

国内2番目の市中感染のため、封鎖が決定されましたが、住民は肯定的に受け入れているとのことです。

地域への車の出入りが制限され、不要不急の外出は認められず、開いているのは食料品店と薬局のみ。今後は住民全員の経過観察が14日間続けられますが、食料供給を補償するための措置が講じられました。

さらに首都ハバナの中心地、ベダード(新市街)地区に8名の感染者が出たため、外出自粛が強化されています。海外からの帰国者を中心に、市中感染があったとみられています。

 空港のみならず、キューバ海域にも通達

感染者が急増している背景もあり、出入国を管理する水際対策も厳しくなりました。4月1日に米国からキューバ人73名、在留外国人1名を乗せた旅客機1便が到着しましたが、これを最後に新たな発表があるまで、定期便とチャーター便の上陸停止措置が取られました。

一方で、キューバからイタリアやアンドラ公国、カリブ海・中南米の国々などへ医師団が派遣されており、これらの医師団の出国や、貨物機、支援物資や緊急を要する場合は例外措置も取られています。

島国であるキューバは、観光客を乗せた外国船舶に対して、キューバ海域から出るように通達しました。もちろん、3月に英国クルーズ船の入港を受け入れたように、人道的、緊急性を要する場合に限って入港は認められますが、乗客・乗務員は14日間、経過観察のため隔離措置が取られることになります。

 人びとの声で「休校」に

日本からみると、こうしたキューバ政府の対応は「強権的」な印象があるかもしれません。ただ現場や一般市民の声が後押しした実現した対策もあります。

そのひとつが教育現場です。当初、キューバ政府は「学校のほうが子どもにとって安全」という見解でした。ところが市民から「休校にすべき」という声が多数出て、幼稚園以外の教育現場は休校になったという経緯があります。

初の感染者が出て10日も待たずに発表した、外国人観光客の入国禁止措置についても、人びとから要望が集まっていました。当時、感染者の多くが外国人観光客やその接触者だったからです。

キューバにとって観光は重要な産業です。世界中どこの国でも、責任ある立場の人たちは、経済的な影響とのバランスを熟考したうえで、入国制限措置の時期を慎重に見極める必要があります。

そうしたなか、キューバ政府が思い切った決断をした背景には、一般市民の批判の声や現場の意見を考慮したという側面もあるのです。

 WHO関係者からのポジティブな評価

WHO傘下のPAHO(米州保健機構)のキューバ駐在員によると、PAHOは毎日キューバの専門家との会議を続けているそうです。

この駐在員は「キューバはWHOが世界的な脅威と宣言する前から行動計画ができていた」と説明しており、「現在取られている措置は感染状況の変化に合わせ、行動計画に沿った形で行なわれている」と評価しています。

 制裁で医療支援が受け取れない

新型コロナウィルスへの対策に力を入れるなか、懸念されているのが、米国による対キューバ経済制裁の影響です。トランプ政権のもと、この1年で300もの項目が加わり、制裁が強化されています。

昨年9月はキューバへの燃料を積んだ貨物船やタンカーが制裁対象となり、国全体が深刻な燃料不足に陥りました。バスなど公共の交通機関が運行停止になったり、減便に追い込まれたりして、ガソリンスタンドには長蛇の列ができました。

さらに米国の経済制裁により、世界市場でもキューバが航空機や部品を購入できません。その結果、キューバにとって頼りだった海外の航空機リース会社も、米国の脅しに耐えられず、契約の打ち切りを通告せざるを得なくなったのです。

また12月にはハバナ以外への都市に向かう米国からの定期便が運行停止となり、今年3月にはチャーター便もハバナに限定されました。背景には、海外から里帰りするキューバ人が家族に対して物資等を支援するのを断つ目的があります。

こうした制裁措置と度重なる金融制裁により、キューバの食料品輸入にも大きな影響が出ています。昨年以来、鶏肉を買い求めるために長蛇の列で言い争うキューバ人の様子が、「反キューバキャンペーン」を繰り広げるネットニュースのサイトで配信されていました。

キューバの食料不足、物資不足の様子が、こうした「政治利用」のために拡散されている一方で、物資が豊かな先進国の人たちが買いだめに走り、列で殴り合いをする映像については大きく報じられることがありません。

さらに、米国による対キューバ経済制裁は、新型コロナウィルスの対策にも暗い影を落としています。

中国IT企業アリババの創業者で元会長のジャック・マーが設立した、ジャック・マー公益基金会とアリババ公益基金会は、新型コロナウィルス拡大で深刻化する医療物資不足を受け、世界各国に支援を行っています。

日本にも3月初め、100万枚のマスクが送られたほか、米国にも50万の検査キットや100万枚のマスクが送られました。同基金はすでにアジア、アフリカ、ヨーロッパの77カ国に支援をし、今後感染拡大が見込まれるカリブ海・中南米地域24カ国にも医療物資を送ることになりました。

このなかにはキューバも含まれていましたが、運送会社が「米国の制裁措置に抵触する」として、運搬を断ってしまったのです。

 米国から逃れてくる感染者

キューバで最初の新型コロナウィルス感染が確認されたとき、米フロリダ州マイアミ・デイド郡の郡長は、「マイアミにとって非常に脅威だ」と訴えました。マイアミからキューバまでは直線距離で350キロほど、いわゆる目と鼻の先です。

マイアミ・デイド郡長は反キューバ政治家とともに、トランプ政権に「キューバ行き飛行機の運行停止」を求めました。ところが約3週間を経て、フロリダ州の感染者数は9千人を超え、死亡者数は144名に達しました。

キューバで今、新型コロナウィルス感染者の多くは、米国から逃れてきた人たちやその接触者です。国境を超えた「脅威」が広がるなかで、こうした現実を米国はどう受け止めるのでしょうか。

参考文献:
キューバ保健省のウェブページ
キューバ共産党機関紙、グランマ(Gramma)
キューバ掲示板サイト、クバディバテ(Cubadebate)
キューバ新聞、トラバハドレス(Trabajadores
ビジネス・インサイダー「新型ウイルス支援でマスク100万枚寄贈
ウェブサイト「アリババ・ニュース

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