「外国人入国禁止」に踏み切った理由~キューバ政府の決断プロセス

キューバ
新型コロナウイルス対策強化についてテレビ番組で話すキューバ政府首脳陣(共産党機関紙「グランマ」)

キューバ政府は3月20日(現地時間)、新型コロナウィルス(COVID-19)感染者が21人に増えたのを受けて、対策を強化することを発表しました。

キューバが国内で初めて新型コロナウィルスの感染者が出たのは3月11日。イタリア人観光客3人の感染が判明しました。その後、感染者は増加の一途をたどっています。政府は24日から30日間、観光目的での外国人の入国を禁止することを明らかにしました。

テレビ番組で大統領、首相、保険省大臣ほか閣僚が、新型コロナウィルスの対策強化を呼びかけたことで、国内では緊張感が高まりました。

キューバは観光を主な産業として位置づけており、「外国人の入国を全面的に禁止する(注)」というのは思い切った対策です。

注:在留資格を持つ外国人、協力団体で入国する外国人はこれに該当せず、諸事情や状況によっても柔軟に対応するほか、海外在住のキューバ人の入国は保証し、国内に滞在するキューバ人や外国人の出国もまた保証されます。国境や空域、空港の閉鎖も現時点ではないとのことです。

 キューバにとどまるほうが安全

こうした措置を発動する理由として、キューバ政府は「人命保護の観点」を第一に挙げています。世界中で深刻な感染拡大がみられ、航空会社が減便、運休を決定するなか、外国人の入国がそのまま感染リスクとなるからです。

今回の措置により、キューバ国内に滞在する外国人観光客には民宿、ホテル、旅行会社から早めの帰国を促されることになるようです。航空会社の運休などで滞在が長引くと、旅行者の経済的な負担が大きくなると考えられるからです。

また政府は、海外に出国するキューバ人に対しては不要不急の旅行を避けることを推奨し、現状ではキューバにとどまるほうが安全であると、強調しています。

あわせて、商務大臣、労働大臣、キューバ中央銀行副頭取も経済政策について説明しましたが、こちらは次回以降の記事で詳しくお伝えしていきます。

 感染に備え3100床が準備中

こうした思い切った措置に至るまで、キューバ政府は新型コロナウィルスについての対応を国民に説明してきました。

まだ感染者が判明していなかった3月9日、キューバ国営テレビ番組を通じて首相、副首相、保健大臣が新型コロナウィルスの脅威に対する国家戦略を発表し、全国民に「怖がることなく、冷静な対応を」と伝えていました。

感染者が出た場合には隔離して治療を行うこと。全国の医療施設で(9日時点)3100床、集中治療は100床が準備中であり、必要に応じて順次増やす計画であること。新型コロナウィルス検査は国内3ヶ所(西部地区はハバナ、中部地域はサンタクララ、東部地域はサンティアゴ・デ・クーバ)で実施されること。2020年に入って国内の呼吸器疾患患者500人を検査したところ、いずれも新型コロナウィルス陰性と判明したことなどです。

加えて、国民への新型コロナウィルスに対する情報提供のため、PCやスマホでダウンロードできるアプリを作り、感染の状況などにおける警戒レベル別の行動計画をマニュアル化し、医療現場、税関職員、交通省、観光省、市町村、教育現場、外国人が訪れるホテルや民宿、レストランなどに普及させていました。

 教育現場でも感染予防を徹底

中国の武漢で感染が始まってから、時間的余裕があったこともあり、キューバ政府は中国からの情報も得て対策を講じてきました。

そもそも中国とキューバは医療協力が盛んなため、新型コロナウィルス感染の初期段階から、情報交換が行われていたのです。2006年から交換留学制度が始まり、これまでに約3千人の中国人がキューバの医科大学を卒業しており、2004年に始まったバイオテクノロジー技術の共有により、医薬品の共同開発も行われていました。キューバが80年代に開発したインターフェロン・アルファ2bという薬は、中国で新型コロナウィルスの患者3千人に投与され、効果が認められています。

キューバ政府の新型コロナウィルス対策について評価をするのはもちろん時期尚早です。こちらの記事で説明したように、市民の健康をチェックする家庭医の存在や予防医学に力を入れ、医療が無料で充実しているとはいえ、苦しい経済状況を背景に、医療機器や設備、医薬品などが不足することも考えられます。新型コロナウィルス対応にどう影響するのか、心配な面もあるでしょう。

ただ特筆すべきはここに至るまで、キューバ政府がメディア等を通じ、市民に向けて具体的になぜ、この段階でこのように対応するのかを説明している点です。物資不足が深刻なため、保健省は「自作マスクの作り方」を動画で説明したり、教育現場で感染予防を徹底する、といった取り組みもしています。

市民が不安、混乱に陥らないよう、先んじて必要なことを伝えていく。キューバは共産党による「一党独裁」と非難されることもありますが、やみくもに手を打つのではなく、まず市民に情報を提供し、必要な具体策とその理由を示し、行動計画を説明したうえで、今回の措置を発動しています。素早い決断と市民への丁寧なコミュニケーションの背景に「人命を守る」という強い覚悟をうかがい知ることができます。

参考:
キューバ共産党機関紙「グランマ(Gramma)」
時事ドットコムニュース「『マスク、なければ自作を』 キューバ、米制裁などで調達難―新型コロナ

ケパサenミカサ編集部

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